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2011年12月1日〜
総計 : 224988224988224988224988224988224988

極域環境データサイエンスセンター

国立極地研究所

データサイエンス共同利用基盤施設

Research Organization of Information and Systems

国際極年(IPY 2007-2008)のデータ管理


国際極年(IPY2007-2008)のデータ管理について 


 はじめに:

  日本の南極観測開始の契機となった「国際地球観測年(IGY)」から半世紀を経て、国際科学会議(ICSU)と世界気象機関(WMO)が中心となり「国際極年(IPY 2007−2008)」が実施された。両極における様々な研究活動が、国際的連携により組織的・集約的に展開され、生物圏を含めた地球規模の変動現象が顕著に捉えられた。とりわけ、地球システムにおける極域の重要性はかつてないほど高まり、我が国も国際極年に主導的立場で多数の観測計画に参画した。

 しかしながら、国際極年への取り組みは極域研究の通過点に過ぎず、ポスト国際極年における地球環境変動のモニタリング、さらなる基礎科学的発見や研究観測手法の開発、国際極年の遺産(IPY Legacy)としての観測プラットフォームの保守継続、両極で取得されたデータの包括的なマネージメント等、様々なカテゴリーで永続的に国際協力を推進することが、ポスト国際極年においても引き続き重要である。

  このページでは、過去数年間の国際極年をめぐるデータマネージメントの経過、並びに現況について紹介する。南極科学委員会(SCAR)や国際北極科学委員会(IASC)の動向を踏まえた、学術会議や極地研を含む我が国の対応、また、ワールドデータセンター(WDC)をはじめ、国際科学会議(ICSU)下のデータ関連の学術団体における組織改変など、国際極年に関連した動向についても記載した。



極域データの集積と公開:

  国際協力と分担を基本理念とする南極観測をはじめ、両極域で得られた学術データの情報提供、とりわけデータベースの構築・公開などの基盤整備の重要性が指摘されている。そのため極地研究の関連各国では、IGY以降急激に増加した、半世紀にわたり極地で蓄積されている様々なデータ(地上観測、観測衛星や船上観測、他)を、効率的かつ安定に保存管理し、国内外の研究者が簡易に利用できるように配慮することが求められている。

  国際的要請として、SCAR下の南極データマネージメント委員会(SCADM)に呼応する形で、関連各国に極域データの提供元としてのナショナルデータセンター(NADC)の設立が求められてきた。我が国では、極地研内の極域データセンター(PDC)が、SCADMに対応するNADCとして活動しており、文字・数値データの所在に関する情報(メタデータ)を中心に国内外に公開してきた(http://scidbase.nipr.ac.jp/; Kanao et al., 2008)。このメタ情報のもとになる学術データの種類としては、定常官庁を含む南極域のモニタリング観測をはじめ、国際共同研究を含む様々なプロジェクト観測、また北極域のデータの一部が集積されている。PDCで公開しているメタデータの総数は、2011年11月段階で150件を超えている。

  また、PDCと同一のデータセットを、アメリカ航空宇宙局(NASA)の汎地球変動データベース(GCMD)内の南極マスターディレクトリー(Antarctic Master Directory; AMD)や、北極マスターディレクトリー(Arctic Master Directory)へも同時に登録している(2011年11月現在で計210件)。さらに、国際極年に関係するメタデータのみを選別した、GCMD内の別のポータルサーバへも提供している(IPY Master Directory)。



IPY合同委員会でのデータ管理:

  国際極年で得られたデータの管理と公開に関する国際的取り決めを協議するため、ICSUとWMOによる国際極年合同委員会(IPY Joint Committee; IPY-JC)の下に、データ管理に関する委員会(IPY Data sub-committee)が組織された。また、このデータ委員会とは別に、データ関連の情報提供をより迅速に行う目的で、「IPYデータ・情報サービス(IPY Data and Information Service; IPY-DIS)が設立された。IPY-DISは、国際極年の期間中、各プロジェクトと実際の(メタ)データとを結ぶ、中継拠点(ゲートウェイ)として実際有効に機能してきた。

  2009年9月オタワや2010年6月オスロをはじめ、定期的にIPYデータ委員会が開催された。著者は我が国のNational Data Coordinatorとして、これらの会合に参加した。委員会では、IPY国際プログラム事務局(IPY-IPO)による公認プロジェクトをはじめ、各国の国際極年での諸活動によるデータについて、その集積状況、管理と公開方法、相互利用のための具体的手法、データマネージメントポリシー、等について共通理解を得た。

  ポスト国際極年の「大いなる遺産(Legacy)」を、様々な観測研究のプラットフォームから選別して同定する作業は極めて重要であり、IPYで集積されたデータ自体もその重要な項目の一つである。こうした事情を踏まえて、IPYデータ委員会では、ポスト国際極年の時代に向けた長期的視野に立ち、主要テーマとして「データ管理体制の枠組み (Governance)」、「データの相互利用(interoperability)」、「データの長期保管(preservation)」等について議論を重ねた。主要テーマ別に活発にグループ討論を行い、委員会全体へ還元してその方向性を定めた。その結果をまとめた最終報告書は、IPY-JC Summary Report(Parsonsら、2011)に詳しく記載されている。

  さらに国際極年を契機に、極域データ及びその関連情報の長期管理と迅速な公開を目的とした、「極域情報コモン(Polar Information Commons; PIC)」が新たに提案された(4.章に細述)。IPY-JC下のデータ委員会を継承発展させた形態ではあるが、ポストIPYでの北極を含めたデータ管理体制に一石を投じるもので、今後もSCARやIASCでの議論も踏まえ、ICSU内での有機的な学際連携を模索する必要がある。



極域情報コモン(PIC)の設立:

  「極域情報コモン(PIC)」とは、ポスト国際極年において南北両極で取得されたデータの管理公開を運営するための、新たに提案された組織である。ただし、ユーザやデータ管理者等の人的資源のみならず、サーバ設備やネットワーク等のハードウェアや、ソフトウェアを含めたデータ管理体制を包括した形態である。言わば、「極域データ」をキーワードとした、ISCU内の分野横断型学際組織という位置づけである。

  南極域のデータについては、これまでSCADMの指導もあり、組織的にデータ集積と公開作業が進められてきた。メタデータの管理は、2.章で既述したように、GCMDの南極マスターディレクトリー(AMD)等で行われている。しかし、これまで以上にデータ収集と公開機能を強化し、かつIASCやIPYのデータも同時に集積することで、両極のデータ管理を包括的に行うことが、PICの主な目的である。

  PICは、IPY-IPOを中心に設立準備がなされ、ICSU下の学際団体の一つである「科学技術データ委員会(CODATA)」が中心となり、サーバ管理作業に貢献している。しかしながら、SCAR、IASC、WMO、国際測地学・地球物理学連合(IUGG)等の他の学際団体も積極的に協力して運営されている。また、これまで実質的に極域データ管理に携わってきたSCADMやIPYデータ関係者も、引き続きPICに関与しデータの収集公開に努めている。

  2010年6月に開催されたIPYオスロ大会では、PICの発起集会が盛大に行われた(図3)。発起集会では、SCADM、IPY-IPO、CODATAの各担当者により、PIC設立の経緯と祝辞が送られ、またPICのロゴの入った巨大なケーキ(図3)が、会場参加者(約100人分?)に配られた。同時に、PIC推進委員会が開催され(IPYデータ, SCADM, CODATA関係者、計20名参加)、今後の組織運営・データライセンスの付与形態・極域データのコミュニティ規範・技術的課題等、具体的な取り組みについて意見交換を行い、PICが本格的に稼動した。



SCARとIASCにおけるデータ管理:

  ポスト国際極年での南極域のデータ管理については、SCADMが主体となり「SCARのデータと情報に関するマネージメント戦略(Data and Information Management Strategy;DIMS)」を作成し、その実行プラン(Implementation Plan ; IP 2009-2013; Finney, 2009)に従って進められている。SCAR-DIMSでは、主として次に挙げる3項目を実施する。

  1)相互利用可能なリポジトリ―(=“データ資源”を意味する)ネットワークの構築、2)SCAR プロジェクトの成果の評価についての公開作業、3)PICの設立と運用への協力体制の維持、である。3)については、さらにA) PICのデジタルバッチ(digital badge)の取り付け、B) リポジトリ―ネットワーク構築(実際には、(1)と同じ内容)、C)PIC専用サーバへのデータ登録作業、に分類される。

  A) については、web上の極域関連データに「PICロゴマーク付きのデジタルバッチ」をつけることにより、インターネットによる検索を簡便にする。また同時に、データ利用時のユーザ権限に関するライセンス付与も目的としており、バッチ取り付け作業が関係者の努力で鋭意進められている。B)については、SCADM関係者により実施に向けた具体案の検討が進められている。さらにC)については、CODATAよりサーバが提供され、すでに運用が開始されている(http://www.polarcommons.org/)。今後も関係各国の協力により、さらなるデータ収集の努力が望まれる。

  これに対して、北極域のデータ管理と公開作業に関しては、国際極年以前はSCARのような組織的な取り組みはあまり行われていなかった。IPYの各種プロジェクトデータの管理は、例えばIASC下の「持続的北極観測網(Sustaining Arctic Observing Networks; SAON)」等で議論されている。2010年6月のIPY大会では、SAONのデータマネージメントに関する会合が、オスロの「北極監視評価計画(AMAP)」事務局で開催された。著者もIPY データ委員会のNational coordinator として出席した。IPYで集積されたデータを中心に、今後のアーカイブ・公開方法・役割分担について意見交換が行われた。

  SAONは社会科学を含めた幅広いカテゴリーを扱うため、分野毎に公開方法や公開レベルにかなりの幅がある。メタデータ形式のスタンダード作成、共通のインターネットベースの公開用プラットフォームの構築、データ利用時のライセンス規範、さらにデータ公開ポリシー、等について検討した。SAON並びに「カナダ」の国家単独としては、独自の管理サーバによるデータ公開を行っているが、北極に関係する各国全体として統一した体制にはなっていない。さらに、各国ともIPY-IPO公認プロジェクト以外の観測計画も多数存在するため、公認プロジェクトとの分離が難しいのが実情である。今後は、ポストIPYでの両極データ管理組織であるPICとの連携などを、積極的に進める必要がある。



PICへの我が国の取り組み:

    PICへの我が国の取り組みの基本方針は、5.章で述べたSCAR-DIMSの実行プランに従っており、極地研のデータマネージメント委員会や、学術会議のIPY対応小委員会等で承認されている。以下に、その要点をまとめて記載する。

PIC登録のためのデジタルバッチの取り付け方法や、PIC専用サーバへの新規データの登録については、PICやGCMDの担当者と詳細を検討した。その結果、A) PICデジタルバッチに関しては、GCMD内の我が国からの既登録メタデータへ、PICやCODATA推薦のライセンスバッチ(”CCBy Attribution License “;図2右下)の取り付け作業を行い、既に2010年末までに全てのデータについて終了した(AMD、IPYポータルの計250件)。また、極域データの公開に関連する他の国内サーバやwebサイトについても、各管理者へPICバッチの取り付け作業を依頼しており、現在も多方面で進行中である。

  B)のリポジトリ―ネットワーク構築については、SCADMの関連するワーキンググループ(WG-Task 1.3, focus on data services)へ参画し、今後の(メタ)データ交換や共有を目的とした新システムの導入などを検討した。これに関連して、極地研データセンター(PDC)のメタデータポータルサーバを、2011年度に更新(http://scidbase.nipr.ac.jp/)することで対応した。さらに、C) PIC専用サーバ(http://piccloud.arcs.org.au/piccloud/)へのデータ登録作業については、A)と同様に国内の関係するデータ管理者へ依頼すると共に、PDCからもデータ登録作業を継続して実施中である。



新ワールドデータシステムとの連携:

  IGYにより世界各国で始まった様々な観測活動は、その後の半世紀に極域をはじめ地球の科学的理解に関する画期的な成果を挙げてきた。これら諸科学の進展のための基礎的かつ重要な要因として、この間のコンピューターやインターネット等、情報を扱う技術手法(IT)の格段の進歩が挙げられる。このような過去数十年の科学技術の進展を受けて、国際極年を契機にデータ管理に関係するICSU内の学術団体の組織再編が行われた。

  その中でも特に、IGYで設立された「ワールドデータセンター(WDC)」は、この半世紀のデータ管理公開システムの変容、情報通信ネットワークの進展などにより、その存続のあり方に変化が求められた。そのため2008年10月のICSU総会で、傘下の学際的学術団体のうち「天文及び地球物理データ解析サービス連合(FAGS)」とWDCを統合し、新たに「ワールドデータシステム(World Data System; WDS) 」を発足することが決定された。

  新しいWDSは、これまでWDCに所属した各センターのみが単にWDSへ移行するのではなく、地球惑星科学以外の広範囲な学際的・包括的な学問分野のセンターを含むことを想定している。地球上に埋もれた多種多様なデータを発掘し、公開するための新たなWDSの活動を、我々は模索する必要がある。

  その後も、WDS科学委員会や関係者の努力により、現在までに約100のセンターや機関が登録された。その中には、我が国からの計10箇所が含まれる。極地研内のオーロラデータセンター(WDC for Aurora)も長年WDCの一つとして貢献してきたが(Kanao et al., 2008)、新たなWDSへも継続して登録申請を行っている。IPYや極域データに関係するセンターや公開用サーバを管理している関連機関には、WDSへの新規登録をお願いしている。

  以前のWDCでは定期的な総会を開催しておらず、加盟センター間の継続したかつ緊密な情報交換の場が求められた。また、新しいWDS運営の中心となる科学委員会を、CODATA総会に合わせて実施するように、ICSUより助言があった。そのため、2010年10月の第22回CODATA総会(ケープタウン、著者参加)でWDS科学委員会が開催され、今後の運営方針について議論された。さらに、CODATAはPICの主導的立場であるため、PIC関連セッションも同時に催された。そこでは、IPYデータ管理の経過と今後のPIC運営の具体的方針が説明され、またCODATA内に新たにPICのタスクグループが発足された。

  WDSは、ICSUからの要請もあり、ポスト国際極年においてCODATAと共に極域データの収集管理公開への連携姿勢を明確に表明している。WDS科学委員会からの意見書(WDS-SC, 2009)では、WDSへ加盟するセンターを新規に募りつつ、IPYをはじめ極域データの集積作業にも積極的に関与することを示唆している。そのためSCARとIASCは、今後もICSU下の分野横断型のデータ関連組織であるWDSやCODATAとも緊密な連携を保ちつつ、継続的な極域データの管理運営が望まれる。

  なお、2011年1月には、WDSの国際事務局(IPO)として情報通信研究機構(NICT)が選ばれており、我が国からWDSへの大きな貢献が期待される。また2011年9月には、我が国の関係者が主体となり京都で第1回のWDS国際シンポジウムが開催され、WDSの本格稼動に向けて新たなスタートが切られた。



IPY レガシィとしてのデータ:

  極域を含む地球観測データの交換・共有の意義やその有効性については、IGY以降現在までの課題でもある。個々の研究者によりその重要性は認識されているものの、それぞれの国家や研究グループ、学術組織レベルでの具体的な取り組みに関しては、今なお議論の余地がある場合が多い。

  しかし、本稿で取り上げたICSU傘下の様々な学際団体による働きかけと協同により、観測データの汎地球的な流通が時代を経るに連れて促進されたのは事実である。そして様々な研究活動が盛り込まれた国際極年IPY2007-2008では、両極での新しい現象が観測され、多数のプロジェクトによる学際的・国際的連携が大いに強化された。我が国も主導的立場で参加し、様々な成果を上げた。ポスト国際極年世代への「大いなる遺産(Legacy)」の中でも、IPYで取得された貴重なデータは、最も重要な項目であることは疑う余地もない。

  時間的なスナップショットであるIPYは、それを契機にして近未来に向けた両極全体の長期間アーカイブ・システム構築への橋渡しとしての役割をもつ。特にGCMDやPICをはじめ世界中で集積された(メタ)データは、将来の多種多様なデータセットのユニオン・カタログ(Union Catalogue) 構築に向けてのマイルストーンという意味でも重要である。



おわりに:

  ここでは、国際極年のデータマネージメントについて、ここ数年の経過と現況を報告した。2012年4月に開催されるモントリオール大会が、国際極年IPY2007-2008の最後のまとめとなる。我が国からの多数の参加を期待すると共に、今後の両極での観測研究やデータ収集公開の益々の進展を祈念する。

  IPYを契機にして、北極と南極の双方を扱う包括的な研究組織の構築が謳われており、IPYのレガシィを集積・維持しつつ、SCARやIASCに関係する研究者からの意見収集、並びに情報還元が求められる。極域の若手研究者組織(APECS)やPIC、さらにはWMO主導の「国際極十年(International Polar Decade;IPD)」が新たに開始されており、学術会議を窓口とした我が国の速やかかつ的確な対応が望まれる。

  国際極年でのデータ管理運営にあたっては、IPY, SCAR, IASC, WDS, CODATA, 極地研、学術会議小委員会、等をはじめ、国内外の多数の関係各位に厚くお礼申し上げる。



文献:

Finney, K., (2009) SCAR Data and Information Management Strategy (DIMS) 2009 – 2013. In Summerhayes, C., & Kennicutt, C., (Eds.), SCAR Ad-hoc Group on Data Management, 34, Cambridge, Scott Polar Research Institute.

Kanao, M., Kadokura, A., Yamanouchi, T., & Shiraishi, K., (2008) The Japanese National Antarctic Data Centre and the Japanese Science Database. JCADM newsletter, 1, p10. 

Parsons, M.A., de Bruin, T., Tomlinson, S., Campbell, H., Godoy, Ø., LeClert, J., & the IPY Data Policy and Management Subcommittee, (2011) The State of Polar Data–the IPY Experience. In Krupnik, I., Allison, I., Bell, R., Cutler, P., Hik, D., Lopez-Martinez, J., Rachold, V., Sarukhanian, E., & Summerhayes, C., (Eds.), Understanding Earth's Polar Challenges: International Polar Year 2007-2008 –Summary by the IPY Joint Committee-, 3.11, 457-476, Edmonton, Alberta, Art Design Printing Inc..  

World Data System - Scientific Committee (WDS-SC) (2009) IPY & WDS -Executive Summary-. 2/7.1 Ver. 1.1

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